嘉納治五郎と100年レガシー

嘉納治五郎の書

幼い頃より書道と漢学に親しみ、書家としての道も極めた嘉納先生は、多くの書を門弟に書き残しました。四書五経の中の言葉のみならず、嘉納先生の造語によるものも多くあります。戦前の評論家、横山健堂(1872~1943年)は先生の書について次のように述べています。

「嘉納先生の書は、雄渾、闊達にして、殊に行書に於て、気魄風韻兼ね備はり、流暢、自由の妙を極めている。」

(『嘉納先生伝』1931年,31頁)

門下の塩谷宗雄(医学博士)が、全国の道場や学校等に掲げてあった嘉納先生の揮毫(きごう)について、その語句と数を調べたところ次のようであったことが伝えられています(講道館編纂『嘉納治五郎』1964年,665頁)。

順道制勝81精力善用66
力必達21心身自在12
尽力11成己益世8
精力最善活用5自他共栄5
己成5修己治人3

その他を加えると、その数は226に達すると言われています。最も数の多い「順道制勝」は、「勝つにしても道に順って勝ち、負けるにしても道に順って負けなければならぬ。負けても道に順って負ければ、道に背いて勝ったより価値がある」という嘉納先生の考えを示したものです(嘉納治五郎「講道館柔道の文化的精神の発揮」『有効の活動』第8巻2号,1922年)。
このように、書には嘉納先生の教育や柔道、そして日本社会、ひいては世界平和への思いが凝縮されています。嘉納先生が全国各地に残した書は現在も色あせることなく、私たちに力強いメッセージを発信しています。

嘉納治五郎の雅号

嘉納治五郎先生は、60才までは「甲南」、60代は「進乎斎」、70代では「帰一斎」を号としました。
嘉納先生の生地御影が六甲山の南にあたるため、はじめ「甲南」の号が用いられました。

「進乎斎」は、荘子の養生主篇にある「臣之所好者道也、進乎技矣(臣の好む所は道なり、技を進(こ)えたり)」の句にもとづいています。文恵君が、庖丁(ほうてい:料理人の意)の技術に感服して、「善いかな、技蓋し此に至るか」と誉めたところ、庖丁は寧ろ不快らしく、凛として、「臣の好む所は道なり、技を進(こ)えたり」と答えたと伝えられています。技以上に(料理の)道を大事にしているという心意気が窺えます。このことから嘉納先生は、柔道の技の修得以上に、人の道を得ることの大切さを「進乎斎」という雅号に込めたものと思われます。

「帰一斎」の「帰一」の語は、荀子の王覇篇の「百王乃法不同、所帰者一也(百王の法同じからざるも、帰する所は一なり)」に由来していると考えられます。

道徳、宗教、諸思想を研究して、その共通の根本原理を探ることを目的に、1912年、渋沢栄一や成瀬仁蔵により帰一協会が創設されました。そういった社会の風潮を背景に、嘉納先生も自分なりの根本原理を追求しました。嘉納先生は、「道徳を説くには、或る一派の学説とか、一種の信仰とかいふものによって之をとくといふことは、其学説、其信仰を有する人にはよいが、他の人々を納得せしむることは到底不可能のことである。誰人をも納得せしめ得る、根本原理に基づいて説かぬならば、真の徹底せる道徳は説き得ない」とし、「それは自他共栄といふことである。(中略)人が共同生活をして居る以上、相互の間を融和協調していかなければいけないのである。それには、互に譲り、互に扶けるといふことをせなければならぬ」と述べています(嘉納治五郎口述・落合寅平筆録「柔道家としての嘉納治五郎一六」『作興』第7巻4号,1928年)。

以上から、「自他共栄」が万人が帰すべき根本原理であるという意味を込めて、嘉納先生は「帰一斎」の雅号を使ったものと思われます。

(編集協力:筑波大学教授・真田久)

  • zoom常択最善志堅行力
    常択最善志堅行力
    読み : 常に最善を択び 志堅く力めて行う
    意味 : 常に最善の選択をし、志を強く持って努力する
    号 : 甲南 / 所蔵 : 兵庫教育大学

    常択最善志堅行力

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    号 : 甲南 / 所蔵 : 兵庫教育大学

  • zoom成己益世
    成己益世
    読み : 己を成して世を益す
    意味 : 自身を成長させてから社会のために尽くすことができる
    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 横山アサ子氏

    成己益世

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    意味 : 自身を成長させてから社会のために尽くすことができる

    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 横山アサ子氏

  • zoom修己治人
    修己治人
    読み : 己を修めて人を治む
    意味 : 自分自身を修めてはじめて、人を治めることができる
    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 横山アサ子氏

    修己治人

    読み : 己を修めて人を治む
    意味 : 自分自身を修めてはじめて、人を治めることができる

    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 横山アサ子氏

  • zoom力必達
    力必達
    読み : 力(つとむ)れば必ず達す
    意味 : 努力すれば必ず目的に達すことができる
    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 大滝節子氏

    力必達

    読み : 力(つとむ)れば必ず達す
    意味 : 努力すれば必ず目的に達すことができる

    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 大滝節子氏

  • zoom択道竭力
    択道竭力
    読み : 道を択びて力を竭(つ)くす
    意味 : 道を択んだ後に、努力する
    号 : 帰一斎 / 所蔵 : 谷本道夫氏

    択道竭力

    読み : 道を択びて力を竭(つ)くす
    意味 : 道を択んだ後に、努力する

    号 : 帰一斎 / 所蔵 : 谷本道夫氏

  • zoom尽己竢成
    尽己竢成
    読み : 己を尽くして成るを竢(ま)つ
    意味 : 自身で努力して、成功することを待つ
    号 : 帰一斎 / 所蔵 : 谷本道夫氏

    尽己竢成

    読み : 己を尽くして成るを竢(ま)つ
    意味 : 自身で努力して、成功することを待つ

    号 : 帰一斎 / 所蔵 : 谷本道夫氏

  • zoom教育之事天下莫偉焉
    教育之事天下莫偉焉 一人徳教広加万人 一世化育遠及百世
    読み : 教育のこと、天下これより偉なるはなし 一人の徳教、広く万人に加わり
    意味 : 世の中に教育ほど尊いものはない、一人の徳の教えは、広く万人に影響し、一代の教えが百代後の世まで及ぼす
    所蔵 : 横山アサ子氏

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    読み : 教育のこと、天下これより偉なるはなし 一人の徳教、広く万人に加わり
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  • zoom自他共栄
    自他共栄
    読み : じたきょうえい
    意味 : 自身も他者も共に成長し栄えること
    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 筑波大学

    自他共栄

    読み : じたきょうえい
    意味 : 自身も他者も共に成長し栄えること

    号 : 進乎斎 / 所蔵 : 筑波大学

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